悩みを抱える子ども若者の今
一覧はこちら子ども・若者の問題におけるLight Ring.の役割
子ども・若者の自殺や孤独・孤立、
こころの病を防ぐために大切なこと
Light Ring.では、10年以上にわたって子ども・若者の自殺/孤独・孤立対策、こころの病の予防活動を続けてきました。
これまでの活動を通して、私たちがたどり着いたのが「予防型社会」という考えです。ひとたび精神疾患を患ってしまうと完全に寛解するのは難しく、時間もお金もかかります。また、精神疾患を患う前駆症状として「誰にも言えないつらい気持ち」など孤立感を抱え、生きる価値がないと希死念慮を抱える子どもたちや若者も多く存在しています。
しかし、これまでの社会では事前の「予防」よりも事後の「治療」に重きが置かれてきました。事後の「治療」に重きが置かれてきたことにより、発症すると、寛解までに時間・金銭・精神的負担が大きな課題となることが顕著になっています。
このように、対処療法には限界があり、したがって今後は治療よりも予防に重きを置く社会への転換が必要不可欠です。
その「予防型社会」の担い手とは、事態が深刻になってから対応する専門家ではなく、日常生活の中で関わっている身近な人々です。家族や友人といった身近な周りの人が可能な範囲で本人に声をかけたり、専門家を紹介したりすることが、重要な役割を果たします。
実際に10代の場合、悩みを相談する相手として友人を選ぶ割合が他の年代と比べて高くなっています。こども家庭庁が2023年に実施した「我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査」によると、日本の子ども・若者が悩みを相談する相手として、家族に次いで多いのは友だち(SNS上の友だちを含む)であることがわかっています。つまり、子ども・若者の悩みやSOSを受け止めるには、大人や専門家だけでなく、身近な同世代も大切な役割を果たすのです。

子ども・若者ゲートキーパー養成に関する社会的な動き
厚生労働省が2022年10月に閣議決定した「自殺総合対策大綱」にも、若者を含めたゲートキーパーの養成が明記されています。ゲートキーパーとは、自殺のリスクにつながるような悩みに気づき、声をかけ、話を聴き、必要な支援につなげ、見守る人のこと。当法人では、ゲートキーパーのことを「支え手」と呼んでいます。

「支え手(ゲートキーパー)」に特別な資格は必要ありませんが、年代によって期待される役割や、養成されるべきスキルに違いが生じます。特に子どもにおいては「気づき、つなぐ」点が重要です。

悩みを受け止める「支え手(ゲートキーパー)」もサポートを必要としています
警察庁・厚生労働省の自殺統計によると、令和6年の児童・生徒の自殺者数は過去最多の529人に達したことが明らかになりました。
これまでで最も多かった令和4年の514人を上回り、過去最多となりました。このことから、同世代のSOSをいち早く察知できる「支え手(ゲートキーパー)」の重要性が一層注目されています。
希死念慮を持つ方にとって、大人や専門機関には言えない気持ちを打ち明けられる唯一の存在になっていることも少なくありません。
市区町村ごとに策定が義務付けられている自殺対策計画に基づき、「ゲートキーパー研修」を実施する地方自治体が増加しているのが現状です。
しかし、養成後のサポート体制が不足していることもあり、相談に乗ったり寄り添ったりしているうちに、「支え手」自身も悩みにのみ込まれて、苦しい気持ちになってしまうことが少なくありません。
当法人では、そんな子ども・若者の「支え手」に対して、必要とされる知識や援助技術、専門家へのつなげ方、セルフケアの仕方などを学べるプログラムを提供しています。また、同じ境遇の「支え手」同士が出会い、相談できるコミュニティを通じて、身近な人の悩みを受け止める子ども・若者を総合的に支援していきます。
子ども・若者の「支え手」がぶつかりやすい2つの壁
子ども・若者の「支え手」の強みは、悩みに共感し、同世代ならではの寄り添い方ができること。その一方で「異変に気づいた後、声をかける」「話を聞いた後、専門家につなげる」といった場面で困難を抱えやすいという課題もあります。

当法人では、通常のゲートキーパー研修とは異なり、座学を受けた後の実践や振り返りを重視しています。また、各市区町村別の自殺実態分析や地域実情に基づき、自分自身の悩みやストレスに対応するセルフケア(知識や支援技術)、友だちや家族のいつもと違うSOSサインに気づきつなげる研修も実施しています。

2024年時点で、養成した「支え手」の数は約32,000人。日常生活の中で、学んだスキルを意識することで、身近な友人や家族の異変にいち早く気づいたり、つらい気持ちを受け止め、必要に応じて専門家や支援機関に連携して、早期にリスクを防ぐことにつながります。
Light Ring.の活動を通じて
本講座をはじめ、当法人の活動を通じて、「支えられる側」だった人が「支え手」になるなど、参加者の質的変化が見られることがあります。
例えば、数年前に支えられる側として「聴くトモプログラム」に参加したMさんは、病状が繰り返しながら徐々に安定するようになった際に、自身の病気についてもっと知りたいと思い、関連資格を取得したそう。過去に支えられていた経験を踏まえ、身近な人の悩みに寄り添う「支え手」に伝えられることがあると考えて、当法人の事務関係に携わり、スタッフとしても活躍してくれました。

Mさんは、スタッフとしての活動や、さまざまな「支え手」との出会いが、自己や他者に対する考えを深めることにつながったと言います。過去に実施したインタビューでは、「自分を支えてくれた人たちの気持ちやまなざしへの理解が深まりました。また、支え手の存在そのものが、こころの支えになっていることを改めて感じるようになりました」と語ってくれました。
Light Ringの立場と医療行為について
当法人では、代表理事やスーパーバイザーは専門資格保持者ですが、全てのスタッフが医療に関する専門資格を持っているわけではありません。したがって、診療など一切の医療行為を行うことはできません。そのため、状況によっては病院の受診を推奨することもございます。
当法人は、医療を支える予防に取り組む市民として、健康と病は切り離すものではなく、専門機関と適切に付き合う必要があると考えます。このような考えに基づき、今後も行政や医療機関など「子ども・若者のこころの健康」に関して専門的サポートを行う各種提携先と連携し、支援を届けてまいります。
専門職に就いていて、身近な人の悩みを受け止める「支え手」をサポートすることに関心をお持ちの方がいらっしゃいましたら、ぜひ当法人までお問い合わせください。
参考サイト
厚生労働省 「ゲートキーパーになろう!」(Light Ring.監修)
厚生労働省「まもろうよ こころ」
内閣府 孤独・孤立対策推進室 あなたはひとりじゃないチャットボット
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 「こころの情報サイト」
厚生労働省「身近にある地域の相談窓口」
※出典1:「我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査」(こども家庭庁)を基にLight Ring.にて作成
※出典2:「自殺総合対策大綱/第4 自殺総合対策における当面の重点施策の概要」(厚生労働省)を基にLight Ring.にて作成