悩みを抱える子ども若者の今
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こころの病による社会的・経済的損失
こころの病は、長期の入院や療養、薬剤の服用が求められることから、医療費全体に与えるインパクトが大きく、社会的・経済的な損失も大きいことが報告されています。
こころの病による主な損失は、
- 患者の治療・サポートのための医療・社会サービスなどの費用
- 患者本人の家庭・職場での生産性低下による損失
- 精神疾患が原因での死亡により実現されなかった期待収入の損失
などがあるとされ、学校法人順天堂「精神疾患の社会的 コストの推計 (2011 年)」によると、日本の精神疾患の年間コストが約11兆円に上ると試算されています。

厚生労働省は、2011年に精神疾患をがんなどと同じ「五大疾患」に認定しました。これにより、日本におけるこころの健康の問題は、病気の範疇を超え、誰もが影響を受ける可能性のある社会問題であることが示されています。
厚生労働省が3年に1回実施している「患者調査」によると、精神疾患を有する総患者数は、258万人(2002年)から419万人(2017年)と15年間で1.6倍に増加。こころの病が社会に与える影響を深刻に捉え、厚生労働省は「令和6年版厚生労働白書」において、初めて「こころの健康」を特集テーマとして取り上げました。労働分野において、こころの健康が当たり前に扱われるようになり、メンタルヘルス対策も徐々に浸透しています。
こころの病が社会問題として解決されない理由
現在の日本では、こころの健康に対する「予防」の意識が低く、病気や不調が発生してからの対策に重きが置かれる傾向にあります。
「令和6年版厚生労働白書」によると、健康状態にとって最もリスクとなる要因について尋ねた結果、「精神疾患(こころの病)を引き起こすようなストレス」と答えた人が15.6%に上りました。この割合は、2004年度の5.0%、2014年度の11.0%から、年々高まっていることがわかります。

こころの不調に関する相談傾向
一方で、こころの不調を周囲に相談するかどうかについて尋ねたところ、体の病気と比べて相談しにくい傾向があることがわかりました。体の不調については、「自覚したら学校・職場に相談する」が12.6%、「自覚したら家族に相談する」が41.5%でしたが、こころの不調の場合はそれぞれ8.0%、30.5%にとどまりました。


当法人では「予防に対する認識や施策が不足している現状」こそが、こころの病の根本的な問題であると考えています。そして、この問題が解決されない主な原因として、以下の3つを挙げています。
1. 病気自体に関する問題
・本人が症状を自覚しておらず、異変に気づきにくい。
・精神疾患を抱えた人に対する偏見が根付いている文化や法律が存在し、相談しにくい環境がある。
2. 予防活動の不足
・現在の診療報酬制度では、発症後の治療のみが対象となっており、発症前の軽度な症状への対応が医師にとって難しい。
・本人だけでなく周囲の人々の理解や協力が必要であるにもかかわらず、それを実現するための対策が不十分である。
3. 国の管轄権限の不明確さ
・労働分野や障害分野など複数の領域にまたがる問題であるにもかかわらず、国の管轄が分散しており、責任者が明確に定まっていない。その結果、包括的な対策を講じることが非常に難しい。
こころの病を抱える子ども・若者の現状
国立成育医療研究センターが2021年に実施した「新型コロナウイルス感染症流行による親子の生活と健康への影響に関する実態調査」では、小学5~6年生の約24%、中学生の約35%に軽度以上の抑うつ症状が見られました。

また、典型的な抑うつ症状を呈している子どもの描写を小学5年生~中学3年生に読んでもらったところ、94~95%が「助けが必要な状態である」と回答。
それにもかかわらず、「もしあなたが同じような状態になったら誰かに相談しますか」という質問に対しては、小学5~6年生の25%、中学生の35%が「相談しないで自分で様子をみる」と回答しました。

このことから、こころの健康に問題を抱えていても、周囲に相談せずひとりで悩みを抱え込んでしまう子どもや若者が多いことがわかります。
同センター研究所の研究グループは、2023年に、小学校5年生(16,350人)と中学校2年生(14,927人)を対象にして、抑うつ症状を示している割合と学校生活の状況との関連について分析を実施。その結果、学校生活に関する質問に「楽しみではない」と回答した子どもは、抑うつ群に分類される割合が高い傾向にあることが分かりました。
例えば「学校の友達に会うこと」について、「とても楽しみ」から「楽しみではない」までの 4 段階の選択肢から回答を選択してもらった結果、「楽しみではない」と回答した子どもにおける抑うつ群の割合は、小学 5 年生で 63%、中学 2 年生で 75%に上りました。

厚生労働省は、「令和6年版厚生労働白書」において「こころの不調は誰にでも、いつでも発生する可能性があり、それについて話し合ったり相談したりできる仕組みを政策として確立することが重要である」と指摘しています。
当法人も同様の見解を有しており、子どもや若者の自殺、孤独・孤立、そしてこころの病の予防には、家族や友人、恋人など、身近な「支え手」を増やすことこそが効果的であると考え、支援活動を継続しています。
出典1:「平成22年度障害者総合福祉推進事業(精神疾患の社会的コストの推計)報告書」(学校法人 順天堂大学)を基にLight Ring.にて作成
出典2〜3:「令和6年版厚生労働白書」(厚生労働省)を基にLight Ring.にて作成
出典4〜5:「コロナ禍における思春期のこどもとその保護者のこころの実態報告書」(国立生育医療研究センター)を基にLight Ring.にて作成
出典6:国立生育医療研究センターのプレスリリース「友人関係や教師との関係が良い子どもは、抑うつ症状の割合が低い傾向 ~小学校5年生・中学生2年生を対象とした「子どもの生活実態調査」~」を基にLight Ring.にて作成